南海トラフ地震は、いつ発生しても不思議ではない大規模地震です。特に海抜ゼロメートル地帯が広がる海部・津島地域では、強い揺れだけでなく、津波や浸水、液状化など地域特有のリスクを知っておく必要があります。今回は「南海トラフ地震臨時情報とは何か」「発表されたら何をすればよいのか」を、公的情報をもとに分かりやすく整理します。

南海トラフ地震とは何ですか?

南海トラフとは、駿河湾から日向灘沖にかけて延びる海底の溝状の地形です。

この地域では、海側のフィリピン海プレートが陸側のプレートの下へ沈み込んでいます。その動きによって陸側のプレートにひずみが蓄積し、限界に達すると大きくずれ動くことで地震が発生します。

南海トラフ沿いでは、過去にも概ね100~150年間隔で大規模な地震が発生してきました。

前回は1944年の昭和東南海地震、1946年の昭和南海地震です。2026年は昭和南海地震から80年となる節目の年でもあり、気象庁は次の南海トラフ地震について「切迫性が高い状態」としています。

ただし、「何月何日に起きる」というように発生日を正確に予測することは現在の科学ではできません。

大切なのは、予測を待つことではなく、いつ発生しても命を守れる状態をつくっておくことです。

南海トラフ地震は一度で終わらないことがある?

「大きな地震が起きたから、これで終わり」とは限りません。

過去の南海トラフ沿いの地震では、震源域全体が一度に動いたケースだけでなく、東側と西側が時間差で動いたケースがあります。

1854年には安政東海地震の約32時間後に安政南海地震が発生しました。

また、1944年の昭和東南海地震から約2年後には、1946年の昭和南海地震が発生しています。

つまり、南海トラフ沿いの一部で大規模地震が発生したあと、別の領域でも大規模地震が発生する可能性があるということです。

この「時間差で発生する可能性」に備える仕組みの一つが、南海トラフ地震臨時情報です。

南海トラフ地震臨時情報とは何ですか?

南海トラフ地震臨時情報とは、南海トラフ沿いで異常な現象が観測され、大規模地震の発生可能性が平常時と比べて相対的に高まったと評価された場合などに、気象庁から発表される情報です。

ここで特に覚えておきたいのは、

「臨時情報=地震の予知」

ではないということです。

臨時情報が発表されても、必ず大規模地震が発生するわけではありません。

逆に、臨時情報が発表されないまま突発的に南海トラフ地震が発生する可能性もあります。

そのため、「臨時情報が出てから備えればいい」と考えるのではなく、普段から備え、そのうえで臨時情報が発表されたら警戒レベルを一段上げるという考え方が重要です。

「調査中」「巨大地震警戒」「巨大地震注意」はどう違う?

南海トラフ地震臨時情報には、状況を理解しやすくするためのキーワードがあります。

主に「調査中」「巨大地震警戒」「巨大地震注意」「調査終了」です。

「調査中」は、南海トラフ沿いで発生した現象について、大規模地震との関連を専門家が調べている段階です。

「巨大地震警戒」は、想定震源域内のプレート境界でマグニチュード8.0以上の地震が発生した場合などに発表されます。

「巨大地震注意」は、想定震源域内のプレート境界やその周辺でマグニチュード7.0以上の地震が発生した場合などが対象です。ただし「巨大地震警戒」に該当するケースは除かれます。また、通常とは異なる「ゆっくりすべり」が観測された場合も対象となります。

「調査終了」は、調査の結果、「巨大地震警戒」「巨大地震注意」のいずれにも該当しなかった場合に発表されます。

言葉だけを見ると難しく感じますが、私たち住民が覚えておきたいことはシンプルです。

臨時情報が出たら、まず正確な情報を確認し、自宅や家族の防災準備をもう一度点検することです。

南海トラフ地震臨時情報が出たら何をすればいい?

「臨時情報が出たら、すぐ避難所へ行けばいいのでしょうか?」

これは多くの方が疑問に思うところでしょう。

結論からいえば、すべての人が一斉に避難所へ移動する情報ではありません。

まず、気象庁や自治体から発表される情報を確認します。

そのうえで、

・家具が転倒しない状態になっているか
・非常用の水や食料があるか
・懐中電灯やモバイルバッテリーが使えるか
・家族との連絡方法を決めているか
・避難場所と避難経路を確認しているか
・薬や眼鏡など生活に欠かせないものを準備しているか

などを再確認してください。

津波や浸水などの危険性が高く、自治体から事前避難が呼びかけられる地域では、その指示や呼びかけに従うことが重要です。

名古屋市では、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」が発表された場合、後発地震発生後の浸水によって避難が間に合わないおそれがある一部地域を「事前避難対象地域」としています。

対象地域では1週間の事前避難が呼びかけられ、それ以外の地域では、日常生活を続けながら地震への備えを再確認することが基本とされています。

つまり、「臨時情報」という言葉だけで行動するのではなく、自分が住む自治体が発信する地域別の情報まで確認することが大切です。

西尾張・海部津島地域では何に注意すべき?

私たちが暮らす海部地域を考えるとき、南海トラフ地震への備えは特に重要です。

愛知県によると、海部地域は木曽川のデルタ地帯を中心とした平坦な土地で、海抜ゼロメートル地帯が広く存在しています。

場所によっては海面より低い土地もあります。

地震が起きた場合には、建物の揺れだけを考えればよいわけではありません。

津波、河川や堤防への影響、浸水、液状化、停電や断水、道路の通行障害など、複数のリスクを想定する必要があります。

愛知県は2026年にも最新の南海トラフ地震被害予測調査を公表し、県の防災マップで震度、液状化危険度、津波到達時間、津波高、浸水深などを確認できるようにしています。

まずは「愛知県全体では危険なのか」ではなく、「自宅、職場、学校の場所では何が起きる可能性があるのか」を確認してください。

地図上で自宅の位置を確認する。その小さな作業が、災害時の判断を大きく変えます。

【図解用プロンプト:愛知県西部のゼロメートル地帯にある住宅地を断面図で説明。河川と堤防、海面、地面、住宅を配置し「海面より低い土地」が直感的に分かる防災教育用イラスト。恐怖表現は避け、行政資料のように正確で簡潔なデザイン。文字入れ用余白あり、横長16:9】

地震が起きた瞬間は何をすればいい?

強い揺れを感じたとき、最優先すべきなのは自分の身を守ることです。

屋内であれば、頭を守り、丈夫な机の下など安全な場所に身を寄せます。

屋外では、ブロック塀、看板、ガラスなど倒れたり落下したりする可能性のあるものから離れてください。

津波警報や大津波警報が発表され、津波の危険がある地域にいる場合は、臨時情報を待ってはいけません。

ただちに安全な場所へ避難することが最優先です。

「南海トラフ地震臨時情報」は、その後に起こり得る大規模地震への備えを促す情報です。目の前の津波や火災などから避難する行動を遅らせるものではありません。

臨時情報が出なければ安心していい?

いいえ。

ここは特に誤解してはいけない点です。

気象庁も、南海トラフ地震臨時情報が発表されないまま、突発的に南海トラフ地震が発生する場合があると説明しています。

臨時情報は「大地震が起きる前に必ず届く警報」ではありません。

だからこそ、防災で重要になるのは「情報が出たら動く」だけでなく、「情報がなくても動ける準備」をしておくことです。

非常用品を買って終わりではありません。

避難場所まで実際に歩く。
家族で集合場所を決める。
寝室の家具を固定する。
スマートフォンが使えない場合の連絡方法を決める。
自宅周辺の浸水や液状化リスクを見る。

こうした準備を一つずつ済ませておくことが、いざというときの迷いを減らします。

今からできる南海トラフ地震への備えは?

南海トラフ地震への備えというと、大掛かりなものを想像するかもしれません。

しかし最初から完璧を目指す必要はありません。

今日できることを一つ実行してください。

まず、自宅周辺のハザードマップを確認する。

次に、避難先を家族で共有する。

そして、家具の固定、非常食や飲料水、携帯トイレ、ライト、電池、モバイルバッテリー、常用薬など、必要なものを家庭ごとに考える。

特に高齢者や小さな子ども、障害のある方、医療機器を使用している方がいる家庭では、「誰が支援するか」「どの段階で避難するか」まで事前に決めておくことが重要です。

防災は、恐れるために行うものではありません。

災害が発生したときに、迷う時間を少なくするための準備です。

南海トラフ地震から地域の命を守るために

海部・津島地域は、豊かな水と平坦な土地によって発展してきた一方、海抜ゼロメートル地帯という特徴を持つ地域でもあります。

だからこそ、地域の実情に合わせた防災・減災を進めていかなければなりません。

行政による河川・堤防・排水施設などの整備や、避難体制、救助体制の強化はもちろん重要です。

同時に、一人ひとりが自分の住む地域のリスクを知り、家族や地域で備えることも欠かせません。

南海トラフ地震が「いつ起きるか」を正確に知ることはできません。

しかし、「起きたときにどう行動するか」は、今から決めておくことができます。

この機会にぜひ、ご家庭の防災対策と避難方法をもう一度確認してみてください。

参考情報

・気象庁「南海トラフ地震について」
・大阪管区気象台「地震と南海トラフの基礎知識」
・名古屋市「南海トラフ地震って、一度で終わらないかも!? 知ろう!『南海トラフ地震臨時情報』」
・愛知県「愛知県南海トラフ地震被害予測調査結果」
・愛知県「海部地域の概要」
・愛知県「海抜ゼロメートル地帯の防災」